パンパシフィック水泳選手権福岡大会

沢崎 健太
福岡大学大学院体育学研究科(所属は掲載時のものです)


1997年8月9日(土)から13日(水)の5日間、アメリカをはじめとする太平洋周辺の強豪国が集い開催されたパンパシフィック水泳選手権大会において、プエルトリコのリカルド・バスケス(Ricardo Busquets 通称:リキ)選手のトレーナーとして同大会に参加する機会を得た。彼はコーチとの2人での参加であったため、トレーナーの同行ができず、通訳ボランティアを通してボランティアでマッサージを行ってくれる人を探していたのである。

リキはプエルトリコ国籍で、現在はアメリカのテネシー大学大学院でスポーツ医学研究室に在籍しているとのこと。我々と同じ学問を志していることや、彼の人柄もあってすぐにうちとけることができた。福岡大学ではスポーツ選手に対して鍼による治療を行っていることを話すと、とても興味深そうにしていたが、やはり鍼は長くて痛いものだというイメージを強く持っており鍼治療をするまでにはいたらなかった。

大会3日目リキは男子 100mフリースタイルで3位に入賞したのである。リキはニコニコしながら「マッサージのおかげさ」といいながらブロンズメダルを誇らしげに見せてくれた。しかし、大会も中盤ということもありリキが疲労しているのが目に見えてわかり、マッサージを行っても肩と大腿後面の張りが心配された。翌日100mバタフライの予選直前に行ったマッサージでも相変わらず張りが残っていた。リキも健闘し何とか予選を通過したものの、決勝を棄権したのである。リキにとってもっとも大切な明日の50mフリースタイルに備えてのことだった。

ホテルに戻った後もリキの体調は良くなく、コーチも心配そうに付き添っていた。しばらくしてリキが突然「Acupunctureをしてほしい」と言ってきた。鍼を拒んでいた彼の口から出た言葉に驚かされたが、さっそくM-Test(経絡テスト)のシステムと円皮鍼の安全性を説明し治療を行った。それまでどうすることもできなかった肩と大腿後面の張りが一瞬にしてなくなったことにリキは驚いていた。その後、コーチに対しても同様に鍼治療を行ったところ、二人は喜び「Great!!」を連発していた。

50mフリースタイルが行われる大会最終日、いつものようにマッサージを行うためにリキのもとへ行くと、「鍼のおかげで体が軽い」と満面の笑みで迎えてくれた。円皮鍼は貼付したままでも競技を行えるが、規定に違反する可能性があるので本番では鍼をはずすことにした。リキは予選を3位で通過し決勝へ進むことになった。最後のマッサージを終え決勝へ向かうリキには何の不安もないように見えた。

午後6時いよいよ決勝のスタートである。前半は3位につけていたが、後半に猛烈な追い上げを見せトップを行くアメリカ選手に競り勝ち、自己新記録という輝かしい記録とともに見事ゴールドメダルを手にしたのである。

今回のパンパシフィック水泳選手権福岡大会での体験を通じて、鍼灸が障害治療のみならずコンディショニングづくりにも重要な役割を果たしうることを実感した。