経絡分布の特徴と人の動き

ヒトの動きを経絡概念でとらえるには、経絡を大きく、体の前面に分布する経絡群、後面に分布する経絡群および側面に分布する経絡群に分類すると分かり易い(表1)。

表1 経絡の構成と分布

これらの経絡群は体の前面、後面および側面の動きに対して類似の負荷を受けることになるからである。前面には手の太陰肺経、手の陽明大腸経、足の陽明胃経、足の太陰脾経が分布しており、これらは動きに際して類似の負荷を受ける経絡群とみなすことが出来る。その中でも、より近似の負荷を受けるものは表裏経ならびに同名経と分類されている(図4・図5)。

図4 表裏経と動きの負荷
図5 同名経の動きと負荷

前面の表裏経である手の陽明大腸経と手の太陰肺経ならびに足の陽明胃経と足の太陰脾経は互いに近接して分布しており動きに際して近似した負荷がかかる仕組みになっている。また、手の陽明大腸経と足の陽明胃経の関係のように上肢および下肢における分布位置が類似するものを同名経と呼んでいるが、位置の類似は動きに際しての類似の負荷を意味している。手の少陰心経、手の太陽小腸経、足の太陽膀胱経、足の少陰腎経がそれぞれ分布する体の後面でも前面と同様に考えることができる。

一方、側面に分布する経絡群では、同名経分布において前面や後面と同様な特徴を有するが、表裏経では異なり、手の厥陰心包経と手の少陽三焦経ならびに足の少陽胆経と足の厥陰肝経との関係のように互いに対立した位置関係を呈している。対立した位置関係はある動きに対して互いに反対の影響を受けることから相補的な関係となる。躯幹の経絡分布まで考慮に入れると、近接と対立の位置関係は表裏経の特徴の一つと考えられる。例えば、腎経や膀胱経においては下肢で近接の位置関係でありながら、躯幹では対立の位置関係となり、肝経や胆経は下肢で対立の位置関係であるが、躯幹では近接の位置関係となるいった形になっている。

次の様な事も動きと関連する特徴である。手の指には左右6種類づつの経絡が分布している。手の指それぞれに経絡が分布しているが、指は5本であり、2種類の経絡が分布する指が存在する。手の第5指がこれに相当し、剣道の竹刀をふるとき、野球のバットを振るときなどの動作において上半身の動きをスムーズに的確に行うために最も重要な役割を果たしている。一方、下半身の動きに重要な役割を担う足の第1趾にも手の第5指と同様に2種類の経絡分布がある。スポーツ動作においては上半身と下半身の動きとの調和ある連携が必要とされ、このことによって身体全体の動きがスム−ズになる。この上半身および下半身の動きに重要な役割を果たす指趾にのみ経絡が2種類も分布している。これも経絡が動きと関わる特徴の一つとしてあげることが出来る。

また、身体の前後の中心線に相当する経絡は任脈と督脈と呼ばれ、それぞれが陰経や陽経を統括するものとして位置づけられている事も人の動きと経絡の分布との深い関連を示している。なぜなら、乳児はまず体の中心の動きを覚え、その後、成長につれて上下肢の動きが出来るようになり、立ち上がる様になる。その結果、体の中心の動きは上下肢や躯幹の動きに際して、最も基本的でかつ重要な要素となっているからである。