はじめに

*1998年にウェブ上で公開した内容です。

医師が西洋医学的治療手段を学ぶ事は比較的容易である。なぜなら、理解しやすい原則と手技を解りやすく教育してくれるシステムがある。一方、鍼灸治療手技を学び実際に診療に応用するのは容易ではない。ツボ選択の原則、ツボの位置の決定、適切な刺激の技術などに関する情報が多様である上に、解りやすい原則はまだ示されていないため、多年のtry and errorを経験する中でしか鍼灸を学ぶことが出来ないからである。著者は長年にわたり大学病院などでの診療に鍼灸治療を役立てようと試みる過程で、鍼灸治療があらゆる疾患に応用できる治療手技である事を痛感してきた。鍼灸治療を医療の一環として役立てていくためには、容易に学ぶことが出来、しかも治療効果が従来の伝統的な方法に劣らないスタンダードな方法の開発が必須と考えられた。

多くのスポーツ選手の鍼灸治療を手がけるなかで、身体全体にすみずみにわたって分布する経絡との関連を意識して治療を行うと極めて顕著な治療効果を得ることが出来る事を多くの症例で経験した。ある時、”目から鱗がおちる”様に、治療すべき異常経絡を容易にみつける方法を思いついた。痛みを誘発ないし増悪させる動きの分析から治療すべき経絡を判断する方法で、2年以上にわたり、様々な疾患や病態に応用してみて、これはスタンダードな方法論になりうると確信した。治療すべき経絡を容易に、迅速に、的確に判断でき、しかも、病態の変化も把握しやすく、同時に効果判定の指標としても有用であることも明らかになった。この方法論を着想し様々な疾患に応用し始めた頃、私のもとに外国人研究員として留学をしてきたドイツの外科医師Gerald Kölblinger氏らと基礎的な検討を行い、この方法論をユニバーシアード福岡大会の一部として開催された大学スポーツ研究会議で発表した。

この方法はその有用性から考えても、広く海外にも普及するもとの確信し、M-Test(経絡テスト)と名付けた。