痛みの発現と経絡

(1)動きの制限は経絡に沿って出現する
ヒトの動きは多関節・多軸にわたっている。そのため、一つの関節の動きは全身の動きと連動するとともに他の関節からの影響を受ける。例えば、図1のように仰向けに寝て、足の拇指で壁を突き破ろうとすると、足首→膝→腰→背骨→肩→肘→手首→頚と力が入り、最後には顔面の筋肉まで緊張してくる。

図1 人の動きは多関節・多軸

この一連の動きに関わる部位に何らかの制限が加わると、いずれかの部位に痛みが引き起こされる。この場合、痛みを訴える部位と痛みを引き起こした誘因の部位が遠く離れている事がしばしば観察される。いわば痛みは偽のサインであり病変部位でない事が多い。例えば、図2に示したバレーボール選手のスパイク時の肩痛においては、肩には異常は発見されなかったが、数日前のブロック時の転倒による膝や足首の外側のささいな打撲を受けていた。この例を経絡概念を用いてとらえなおすとこの下腿打撲後の肩痛は下肢と肩にまたがって分布している胆経という経絡のルートに沿った一連の事象としてとらえる事が可能である。つまり、下肢の打撲がスパイク時の肩伸展を阻害したために痛みが誘発されており、胆経の伸展阻害による痛みと考えられる。

図2 動きの分析に経絡概念の応用

(2)動きの制限は経絡上を移動する
経絡の伸展が阻害されて痛みが出現した場合、時間の経過と共に、その経絡上の他部位にも痛みが出現してくる特徴がある。例をあげて説明する。症例(図3)は62才の男性で、庭の草むしり後に腰痛を発症し、2週間たっても軽快しなかったため受診した。腰を伸展するときに腰痛が増強し、経絡にそった動きの制限という視点からは、体の前面、特に胃経の伸展が阻害されていた。胃経への鍼治療で腰痛は軽快した。1週間後に歯みがき時のうがいに際して後頚部に痛みがあると訴えた。うがいの際には、頚部前面が伸展される。この動作に伴う痛みなので、頚部前面の伸展障害と判断され、腰痛の原因となった同じ胃経上に引き続いて発生した異常ととらえることができる。

図3 伸展制限は経絡上を移動する

これらの特徴をふまえると痛みの部位から治療すべき経絡を判断するのではなく、痛みを引き起こす動きの際に伸ばされる経絡の判断をすることが重要となる。M-Test(経絡テスト)の詳細を説明する前に、経絡とヒトの動きとの関連をまず論じてみる。