第5章 治療原則と刺激方法
5-2.刺激方法
5-2-1.刺激方法
皮膚表面かあるいは皮内・皮下の浅い部分への刺激で十分な効果が得られる。皮膚表面に対してはキネシオテープ、スパイラルテープなどを用いる。これらのテープでかゆみなどが出現する場合にはシルクテープを用いるといい。成書にかかれている方法に基づいてテープを貼付する必要はなく、M-Test(経絡テスト)で刺激が必要と判断された部位に貼付すればよい。
キネシオテープを用いる場合、幅2〜3cm、長さ10ないし20cm位のもので十分である。スパイラルテープは市販の格子状になったものが使いやすい。テープ類の効果持続は短く、その上、しばしば皮膚のかゆみの原因となる。使用しても、せいぜい一日間くらいで剥ぐことが勧められる。シルクテープは比較的かゆみをおこさないので、スパイラルテープのかわりにこれを格子状になるように貼付して用いてもいい。
マッサージなどの刺激でも十分な効果を得ることが出来るし、小児針のような擦過を主とした刺激でもよい。マグレインなどの小さな金属粒による圧迫刺激も簡便で、効果も十分出る。
皮内・皮下への刺激として使い捨ての皮内鍼や円皮鍼を用いる。使い捨ての円皮鍼(図5-1)を用いるとテープで固定する時間が必要でないので、治療時間を短縮できる。直径がたかだか0.1〜0.2mmで深さが1mm位なので、神経・血管・筋組織の損傷や感染などのあらゆる副作用を最小限に抑える事ができる。鍼がきちんと刺入されてなく浮いた状態だとチクチクする痛みがでるので、固定を確実にするために、皮内鍼を刺入したあと、テープ上から鍼の部分を圧迫する事が勧められる。サージカルテープを使用しているので、かゆみなどは少ない。

浅い鍼でも皮下の腱や骨に直接刺さる様な部位には、円皮鍼でなく皮内鍼を用いる事が勧められる。この際、針先をいずれの方向に向けるかが問題となるが、通常、刺入しやすい方向でかまわない。症例によっては、針先の向きが効果を左右することがあるので、その場合は適切な方向を選択する。従来の長い鍼(毫鍼)を用いる場合は、置鍼法や散鍼法で目標とする経絡の刺激を行う。置鍼法を用いる場合、経絡の流注に逆行して鍼を刺入すると、目標とした動きの改善が見られないことがある。その場合には、浅く刺入した後、鍼の方向を変えてみて、動きの改善を観察するといい。例えば、頚部の回旋動作が両方向で制限を受けているとき、右列缺に鍼を遠位側から中枢側に向けて鍼を浅く斜めにさすと左への回旋は改善せずに、逆に右への回旋が改善する。そのまま、鍼を倒して向きをかえると左への回旋が改善するなどの現象が観察される。
皮内や皮下を浅く広範囲に刺激する方法として生理食塩水皮内注射法がある。我々は、5mlのディスポの注射器に生理食塩水を数ml入れ、25〜27Gの注射針をつけた後、刺激対象部位の皮内ないし皮下に0.2〜0.5ml注射する方法を採っている。効果は極めては顕著である。しかし、刺激に痛みを伴う事と効果の持続が鍼治療より短い欠点がある。効果を持続させるためには、生理食塩水を注射した部位に皮内鍼留置する方法を用いる。