下肢・腰部・躯幹下部に対する負荷法

第2章 M-Test(経絡テスト)
2-2.上半身・下半身の経絡分布に対応した分析
2-2-2.下肢・腰部・躯幹下部に対する負荷法
(a) 下肢後面・躯幹背面に対する負荷法
図2-18 下肢後面・躯幹背面に対する負荷法
図2-18 下肢後面・躯幹背面に対する負荷法

下肢後面には表裏関係にある膀胱経と腎経が分布し、躯幹背面には膀胱経および督脈が分布している。1の動作では下肢後面および躯幹背面にかけて伸展負荷がかかる。

一方、背臥位で負荷を行う2、3、4の動作では躯幹背部の負荷の影響が最小限となっている。動作4の負荷で下腿後面などのつっぱり感などが誘発されるときには、足関節周囲の腎経and/or膀胱経の伸展が悪いと判断する。動作2の負荷と動作3の負荷の組み合わせで、大腿後面の伸展が阻害されているか、下腿後面の伸展阻害があるか判断できる。例えば、2の動作で痛みや違和感が誘発され、3の動作で誘発されないときには、大腿後面の伸展阻害はなく下腿後面の伸展阻害による症状の誘発と判断する。

2、3、4の動作による痛みや不快感の誘発を膀胱経and/or腎経に対する治療により消失あるいは著明に減少させたあとに、1の動作を負荷して、痛みの変化をみる。1の動作での痛みが残存しているときには、仙骨部や腰背部の膀胱経ないし督脈の伸展阻害があると判断する。この様に、1、2、3、4の負荷動作をにおいてはそれぞれ伸展負荷を受ける部位が異なるので、どの負荷で痛みが誘発されるかによって治療すべき部位を決める事ができる。

(b) 下肢前面・躯幹前面に対する負荷法
図2-19 下肢前面・躯幹前面に対する負荷法
図2-19 下肢前面・躯幹前面に対する負荷法

下肢前面には胃経および脾経が分布し、躯幹前面には胃経・脾経に加えて任脈および腎経が分布する。1の動作では下肢前面および躯幹前面にかけて伸展負荷がかかる。

一方、腹臥位で負荷を行う2、3、4の動作では躯幹前面の負荷の影響が最小限となっている。4の負荷で下腿前面などのつっぱり感などが誘発されるときには、足関節周囲の胃経and/or脾経の伸展が悪いと判断する。2の負荷と3の負荷の組み合わせで、大腿前面の伸展が阻害されているか、下腿前面の伸展阻害があるか判断できる。例えば、2の動作で痛みや違和感が誘発され、3の動作で誘発されないときには大腿前面の伸展阻害があると判断する。2、3、4の動作による痛みや不快感の誘発を胃経and/or脾経に対する治療により消失あるいは著明に減少させたあとに、1の動作を負荷して、痛みの変化をみる。1の動作での痛みが残存しているときには、腹壁の胃経や脾経あるいは任脈や腎経の伸展阻害があると判断する。

(c) 下肢内外側・躯幹側面に対する負荷法
図2-20 下肢内外側・躯幹側面に対する負荷法
図2-20 下肢内外側・躯幹側面に対する負荷法

下肢内外側面には胆経および肝経が分布し、躯幹側面には胆経・肝経が分布する。1、2、3、4ではそれぞれ伸展負荷を受ける部位が異なるので、どの負荷で痛みが誘発されるかによって治療すべき部位を決める。3の負荷で下腿外側などのつっぱり感などが誘発されるときには、足関節周囲の胆経の伸展が悪いと判断する。2の負荷では、下肢外側and/or内側の伸展が阻害されているかどうか、つまり胆経and/or肝経の伸展阻害があるかを判断できる。1の動作での痛みが残存しているときには、側腹部や側胸部の胆経や肝経に伸展阻害があると判断する。4の動作では体の中心である督脈のねじれと伴に側腹部や殿筋部に分布する肝胆経(帯脈を含む)が伸展されると考える。

この章で示した方法に基づいてあるいは準じて動きを分析すれば、痛みなどを誘発ないし増強する動きの際に伸びるべき部位を判断することは比較的容易であり、これに経絡概念を応用することで治療の組立に必要な情報が得られる。

また、M-Test(経絡テスト)を用いると、様々な治療システムで発現する鍼治療効果を動きの改善という共通の面から評価できる。さらには、動きの制限に変化が見られたときには治療の変更や新たな追加あるいは不必要な治療の中断などを経絡に対応させて即座に判断できるので、変化する病態にも対応できる。その結果、治療指針が立てやすくなる。同時に、西洋医学的方法論による治療効果との比較を可能とするので、卒後まもない鍼灸師や鍼灸治療に取り組もうとする医師が鍼治療法の実際を研修する際に、診断技術や治療技術を共有できるスタンダ−ドな方法の一つとなり得ると考えられる。