第2章 M-Test(経絡テスト)
2-1.各関節の経絡分布に対応した分析
2-1-2.肩の経絡に対する分析
肩には前腕、上腕の経絡分布の特徴がそのまま引き継がれている。前方には主として陰経が分布し、上から太陰肺経、厥陰心包経、少陰心経の順に分布している。一方、陽経は後方に分布し、上から陽明大腸経、少陽三焦経、太陽小腸経の順に分布している。その結果、表裏経である大腸経と肺経、心経と小腸経は近接して位置し、三焦経と心包経は対立した位置関係になっている。肩関節の前方周辺には下肢の経絡である胆経や脾経が分布しており、肩の動きの分析には下肢の経絡も考慮に入れたものである必要が生じる(図2-3)。
図2-4に肩の経絡に対する分析を示した。

図2-4 肩の経絡に対する分析
1の動作の様に、肩を屈曲した際には、肩の後下方に伸展負荷がかかり、表裏経の関係にある心経・小腸経に伸展負荷がかかる。この動作のうち肩の外旋の要素が強い場合、小腸経が伸展され、肩の内旋の要素が強いときには心経が伸展負荷を受ける。この際、肘を軽く曲げ、肩の屈曲をより強くすると、肘から肩へかけての心経・小腸経の負荷ができる。また、動作6の様に肘を屈曲して肩を外旋する負荷で、症状の誘発ないし増悪を観察する場合も同様な負荷となる。外転の要素が強い場合には側胸部の脾経が伸展される。
2の様に肩を伸展する際には、肩内上側に伸展負荷がかかり表裏経の関係にある肺経・大腸経が伸展されるとみなす。この動作のうち肩の外旋の要素が強い場合、肺経が伸展され、肩の内旋の要素が強いときには大腸経が伸展負荷を受ける。特に大腸経への負荷を判断するには、動作5の様に肘を屈曲して肩を内旋する負荷で、症状の誘発ないし増悪を観察する。
4で見られるように上肢を水平位にして上肢を水平位にして肩を内転する動作では肩の外側の三焦経分布領域に伸展負荷がかかることになる。また、肩甲間部や肩胛骨下方も伸展され、膀胱経にも負荷がかかることになる。一方、3で見られるように肩を外転する動作では肩の内側の心包経分布領域に伸展負荷がかかることになる。この動作に肩の挙上の動作が加わると胆経に伸展負荷がかかる。どの動きの制限が顕著であるかを判断する原則を示したが、肩の可動域は極めて広範囲にわたるため、負荷動作を工夫すれば、伸展負荷を受ける部位に分布する経絡の判断を詳細に検討できる。
肩こりなどの治療には重要となる肩甲上肢帯の動きの制限を検討するには、肘を軽く屈曲した状態で、肩を後ろに引く伸展動作、肩を前に出す屈曲動作、肩を持ち上げる挙上動作や肩を引き下げる動作などを負荷して症状の発現や増悪などを観察する。