第2章 M-Test(経絡テスト)
動きに伴って誘発される痛みや愁訴を容易に軽減させるためには、第一に、その動きの際に伸展される部位に分布する経絡に刺激を加える事が最も効果的であることを我々は多くの例で観察してきた。
この観察をもとに、症状と関連の深い経絡を容易に迅速に判断できる動きの負荷法を考案し、M-Test(経絡テスト)と命名した。この方法を用いれば、治療すべき経絡や治療すべき部位を判断する事が容易になる。この項では、頚部、肩、腰などの経絡に対する分析に用いられる動きの負荷法を呈示する。
2-1.各関節の経絡分布に対応した分析
2-1-1.頚部の経絡に対する分析
頚部には前頚部に陽明経(大腸経、胃経)、側頚部に少陽経(三焦経、胆経)、後頚部に太陽経(小腸経、膀胱経)の分布があるという特徴がある。また、 前頚部の中心には任脈、後頚部の中心には督脈が分布する。これらの分布の特徴は頭部、顔面における分布の特徴でもある。

図2-2に頚部の経絡に対する分析を示した。

1の動作の様に、頚部を前屈した際には、太陽経(小腸経、膀胱経)と督脈が伸展される。この場合、膀胱経への負荷が強く、特に小腸経への負荷を判断するには、動作6の様に頚を斜め下方へ屈曲する。この図では、右斜め下方への頚部の屈曲であり、伸展を受けるのは左後頚部の小腸経と判断する。小腸経への伸展負荷は5の動きでも引き起こされる。2の様に頚を後屈する際には、陽明経(大腸経、胃経)および任脈に伸展負荷がかかる。この場合、陽明経のうち胃経への負荷が強く、特に大腸経への負荷を判断するには、動作4の様に頚を斜め後ろに伸展する。この動作では頚部左の大腸経部分の伸展がなされたとみなし、症状が誘発された際には、左大腸経が治療対象となる。5の様な右への回旋も左頚部側面の大腸経に負荷のかかる動作とみなされる。最大限の回旋では左鎖骨下の肺経に負荷がかかり、症状が誘発されれば大腸経と肺経が治療対象となる。但し、頚部の回旋では後頚部の小腸経へも負荷がかかるので、肺経刺激の効果がないときには小腸経も治療対象となる。
3で見られるように右への側屈は左側頚部に伸展負荷がかかり、少陽経(三焦経、胆経)に負荷がかかる。症状の誘発ないし増悪があれば、その動作で伸展負荷を受ける部位に分布する経絡が治療対象となると判断する。頚部や頭部ならびに顔面の愁訴に対しては、ここに示した負荷を行い、どの動きの制限が顕著であるかを判断する。個々の症例では、簡明なパターンを呈するものもあれば複雑な様相を呈するものもあるが、まず、動きの制限が最も強いと判断される経絡を治療対象とするのを原則とする。