経絡の動きの制限と痛みの部位

第1章 経絡と動き
1-2.経絡の動きの制限と病気
1-2-3.経絡の動きの制限と痛みの部位

経絡の動きの制限と痛みの部位との関連は症例で説明するとよく理解できる。37才の女性で寝違いによる頚部痛を主訴として受診した(図1-14)。

図1-14 経絡の動きと制限の痛みの部位
図1-14 経絡の動きと制限の痛みの部位

自発痛は左後頚部であるが、左斜めに後屈したときにのみ肩甲間部にひどい痛みを伴った。この場合、動きの制限から痛みを解釈すると1)右前頚部の伸展が阻害を受けている2)左後頚部の屈曲が制限を受けている3)頚部の中心軸の動きが制限を受けているなどがそれぞれ単独にあるいは複合して痛みを発現していると考察できる。我々は治療を行う場合、まず1)右前頚部の伸展が阻害を受けているために痛みが出現していると判断する。なぜなら、多くの例でこの方法が最も効果的である。この症例の場合、右大腸経が治療対象となり、合谷と曲池に対する刺激で頚部の自発痛や運動痛は消失した。

痛みのある部位に刺激をする、痛みの部位から関連する経絡を決めた上で刺激部位を決める循経取穴や動きを負荷して痛みの出現した部位に刺激を加えるなどの方法論では当然異なる取穴をする。動きの面からこれらの取穴を解釈すると、2)左後頚部の屈曲制限を改善するとの考え方にあたる。これまでの我々の多くの経験に照らせば、伸展すべき経絡を治療対象とする方が十分でより顕著な効果を得ることが出来るので、動きの中で伸ばされるべき経絡の判断がまず優先される。伸展すべき経絡への刺激で十分な効果が得られないときに初めて、屈曲すべきあるいは中心軸と関連する経絡の動きの制限を探る。