第1章 経絡と動き
1-1.経絡分布の特徴と人の動き
1-1-3.同名経分布の特徴
同名経が位置関係を意識したものである事は経絡の分布をみれば容易に推測できる。例えば、手の3つの陽経である陽明大腸経、少陽三焦経、太陽小腸経はそれぞれ第2指、第4指、第5指に分布するが、足の同じ指に分布するのはそれぞれ陽明胃経、少陽胆経、太陽膀胱経と呼ばれている。上下肢や躯幹にあっては陽明と冠される経絡は体の前方に分布し、少陽と冠される経絡は体の側面に位置し、太陽と冠される経絡は体の後面に分布する。この様な上下肢の経絡分布の特徴は頭頚部に引き継がれ、図1-2に示すように同名経は近接して分布している。

前頚部は陽明胃経、陽明大腸経、側頚部は少陽三焦経、少陽胆経、後頚部は太陽小腸経、太陽膀胱経の分布する領域になる。頚部の前屈をすると太陽経が伸展され、後屈すると陽明経が伸展され、側屈すると少陽経が伸展される(図1-3)。つまり、動きに際して、同名経には類似の負荷がかかることを意味している。

陰経における同名経では、陽経の場合の様に全く同じ位置関係ではない。それは、足において、経絡の分布が内側よりにシフトしたために生じている。この足における内側へのシフトが下半身の動きに重要な足の第1趾に2種類の経絡が分布する要因となっている。内側から太陰、厥陰、少陰の順に分布する関係は手と同様であり、下腿の一部で位置の入れ替わりがあるが、大腿部までは上肢と同様な位置関係となっている。陰経においては、同名経が陽経における頭頚部分布の様に同じ領域に分布することがないので、陽経の様な動きとの明らかな関連が定かではない。しかしながら、上下肢の分布が類似しているので動きに際して類似の負荷がかかることが予測される。